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2013年10月24日

不確かさの価値について。「エリック・クラプトン アンプラグド」

クラプトンの名盤、「アンプラグド」のリマスター盤を入手。
10代の頃から繰り返し聴いてきたこのアルバム。
大掃除された、新鮮な音の粒を感じ、改めてこの名演を楽しんでいる。イイネー。やっぱりイイネー。 

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エリック・クラプトン

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まぁ、このライブ盤の詳しい話は散々色んなところに書かれてるので今さら語ることもないわけですが、今一度、なぜこれがクラプトンのキャリアで最もセールスを上げる1枚になったのか深掘って考えてみたいなと。 

ヒット要因をざっと書けば、まずアンプラグドというMTVの新鮮なコンセプト自体が音楽ファンに歓迎されたこと。また、クラプトンというモチーフは「エレキのおっさんからプラグを引っこ抜く」という、アンプラグド・コンセプトを分かりやすく体現することに繋がったこと。さらに、事故死してしまったクラプトンの息子へのレクイエムというバックストーリーの存在、といった複合要因がヒットの理由としてよく語られます。


僕はここに、「不確かさの価値」というテーマも加えてみたいなと。 

アンプラグド、つまり楽器からプラグを外すという行為は、中間にある制御装置に頼らないってこと。音の加工装飾は、音色の自在なコントロールと同時に、演奏の“粗”を隠す効果もあるから、アンプラグドというのはプレイヤーの実力がそのまま投影される演奏形態と言っていい。つまり人間の本来的な揺らぎ、不確かさ、曖昧さが強調されるってことです。 

おまけにTV収録とはいえ、それをライブという形で「せーの」で音を合わせるのだから、不確かさに拍車がかかる。さらには、ギターそのものも、弦に直接触れて音を出すという曖昧さをはらんだ楽器だし、ブルースというジャンルも即興性の高い音楽だったりする。まさに不確定要素満載。 

この偶然の集積が「生身の神様」を強調し、このアルバムの「ライブ」としての価値をより高いものにしたことも、ヒットの大きな要因と言えると思います。


もう一つ重要なのが、そしてこのアルバムの細部を聴いていくと、けっこう演奏ミスはあるし、楽曲自体の構成が未完だったりする事実。もちろんプロフェッショナルの演奏ではあるけれど、いわゆる商業音楽、パッケージングされる音楽として見るとかなりユルい内容。でも結果は御存知の通り、大成功を越えたものとなった。まさに「不完全さ」の見事な勝利。

 ここからちょっと飛躍して考えるのだけれど、このように「不完全なパッケージ」が熱狂的に受け入れられたことは、音楽に限らず、モノを作りという観点で示唆を与えてくれるもんだと思います。つまり、「中の人(プロ)」から見た多くの不確かさは、実は、ユーザーにとって、大きな問題ではないということ。場合によってはその不確かさが、リアリティや誠実さとして好意的に受け入れられることもある、といったこと。 

ある水準を満たすために投じられる労力が、実は全くの無駄になっている可能性や、ユーザーが本質的に求めているものが何なのか、とか、マテリアルの価値の見極めといったところは、誰かのためにモノを作る場合において常に考えなきゃいけないことですね。

まぁ、当たり前っちゃ当たり前の話ですが、いざやろうとすると、なかなか難しいわけで。

リラックスしたクラプトンの演奏を聴いていると、もうちょい肩の力抜いていいんだぜ、って言われてる気がしてくるんだなぁ。