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2013年7月7日

タートルトークのクオリティを確かめに行ってきた。



「すべらない話」で、千原ジュニアが「タートルトーク」の話をしていた。
「タートルトーク」は、東京ディズニーシー内のアトラクションの一つで、
大型客船「コロンビア」施設内にある。
その一室が「海底展望室」となっており、そこで亀の“クラッシュ”と特殊なマイクを使っておしゃべりできるというものだ。
クラッシュは「ファインディング・ニモ」に登場するサブキャラクターである。

千原ジュニアはそこでの体験を、このクラッシュへの称賛と、芸人として自らの敗北、
というかたちで「すべらない話」にしていた。
これはこれで面白い話だった。(文字おこししたのでよかったらこちらも)
プロの芸人が、ディズニーシーのアトラクションに負けたという
あり得なさそうな話だったからだ。

果たしてその「タートルトーク」は、本当にそこまでのものなのか?
多くの人を「さばく」エンターテイメント施設として特異と感じ興味を持った。

■タートルトークのクオリティは本物か?

東京ディズニーランド・シーのオペレーションや施設のクオリティの高さは
実際に目にして実感しているところではある。
しかしそこは突き抜けて毒のない、穢れのない世界であって、
「すれた」大人が行く目的は、あくまで自己浄化にほかならない。
ジェットコースターのような物理的な刺激ものは除くと、
園内での関心事は徹底した「かわいさ」を「愛でる」ことに集約されているように思う。

そこに、芸人を負かすような演出は想像しにくい。
負かすような「毒」が、ディズニーの世界観では許されないような先入観があるし、
芸人を負かすだけの「話術」が、いち施設内としてはオーバースペックにも思える。

どうやらこのコンテンツには「少ない力で人を楽しませる」ヒントがありそうである。
千原ジュニアは「誰も傷つけること無く全員の大爆笑を誘う」と評していた。

これは実際に見たいと思い、先日実際に行ってみた。

先入観を無くしたいので、「ファインディング・ニモ」は未鑑賞のまま。
ネタバレの無い範囲で気づいた点を書いていくが、
夢を壊したくない方にはおすすめしない。

***

数年ぶりのディズニーシー。
「コロンビア号」は園内南側にすぐ見つかった。
入り口で知らされた待ち時間は20分。
かなりの混雑を予想していたが、案外あっさり入れた。

船内に入ると、まず設定とルール説明を行う前室がある。
特殊なマイクについて、詳細な説明をするあたりは、やはり手抜かりが無いなと感じる。
本編に入る前に、あらかじめ周りの世界観をきちんと色付けすることで、
観客にゆるやかな催眠をかけていく。

前室で知ったが、収容人数は200人以上になるようだ。
クラッシュとしゃべることができるのは一握り、ということになる。
通されたのは、小さな映画館のようなスケールの空間で、
前方に海底を覗く大きな窓、という体でスクリーンが設置されている。
前方の客席は子供専用という位置づけで、親子優先席である。


■明確で必然性のあるキャラ設定

さて、ほどなくして
サーフ・ロック調のBGMと共にクラッシュが登場した。
陽気な野太い声。極めて直感的で簡潔なキャラ説明だ。
また、ファシリテーターとしてグイグイ観客を引っ張るのに違和感の無い設定である。
ファインディング・ニモでの素性は知らないが、この亀が選定されたのは必然だったのかもしれない。

最初から観客を「いじる」流れは始まっていた。
まず、冒頭の挨拶で、大人の声が小さい、と指摘。やり直させる。
彼は「フランクで陽気なヤツ」なので、そういう強制が嫌味にならない。
日常でも会話していて楽しいのはこういうタイプだろう。
以降も、子供と大人を明確に区別して、個別に会話が進んでいく。


■「現在進行形」の強調

会話の冒頭は必ず相手の名前を聞き、復唱する。
名前の「音の響き」から何を連想するか、まで言うところ、
「機械音声ではない」ことを暗に証明しようとしているようだ。
実際、そんな必要はないほど、コミュニケーションの質は高いのだが。

名前を呼ぶことは、本人にとってももちろんそうだが、
他の観客にとっても、目の前のそれが、コピーではない、
現在進行形のものであることを実感させる効果があるだろう。
名前の復唱だけではない。
観客が語ったエピソードや住んでいる場所など、「今」インプットした情報は、
個別の会話に独立させず、コミュニケーション全体の流れの中で再利用していくのだ。
あらかじめ固定されたストーリーの中に、その場のキーワードを撹拌させ、
見事に現在進行形コンテンツに仕上げているのである。
たぶんここが、タートルトークで最も満足度が高いポイントだろう。


■強引だが違和感の無い「逃げ」

もちろん、「逃げ」もする。
会話の内容が不明瞭な場合は「全然わからない」で一蹴してしまう。
陽気な亀なので、責任の負い方も適当で良いのだ。
千原ジュニアが「勝てない(助けられた)」のは、このキャラ設定のハンデという
ことになるだろう。
また、オペレーションとしても有効な手段に違いない。
どんな観客に当たるかわからないし、会話の流れを既定路線から外さないためにも、
恐らく多くのパターンで「わからない」が使われるのだろう。


もちろんこれは、高いCG技術(会話と口の動きの連動)や、
話者のスキルが支えている。
このへんは、ディズニーの懐の深さがものを言っている感じだ。
とはいえ、「キャラ設定」や「キーワードの反復と撹拌」といったポイントは、日常のコミュニケーションや、類似コンテンツの制作上、非常に有効な手段であると思う。



関連記事>>

千原ジュニアの「亀のクラッシュ」文字おこし。
あんまり好きだから、テキストにしちゃったよ。動画見ればいいのに



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